植物の呼吸口?気孔の役割と形の違いを詳しく解説

植物の葉や茎の表面には「気孔」と呼ばれる微小な開口部が存在します。気孔は、光合成や蒸散といった植物の重要な生理現象に関わるだけでなく、環境の変化に適応するための役割も担っています。本記事では、気孔の構造や機能、異なる形状の気孔がどのような環境に適応しているのかについて、科学的な根拠をもとに解説します。


気孔とは? その基本構造と役割

気孔の構造

気孔は、植物の葉や茎の表皮にある微細な開口部で、主に二つの孔辺細胞によって構成されています。孔辺細胞は、植物の水分やホルモンの変化に応じて膨圧を変化させ、気孔の開閉を制御します。この開閉機構により、気孔は二酸化炭素(CO₂)の取り込み、酸素(O₂)の放出、蒸散による水分調整といった重要な機能を果たします。

孔辺細胞は、光や水分ストレス、植物ホルモンの影響を受け、細胞内のカリウムイオン(K⁺)や浸透圧の調整によって開閉します。例えば、光が当たるとカリウムイオンが孔辺細胞内に流入し、水が吸収されることで細胞が膨らみ、気孔が開きます。一方、乾燥時やストレスを受けると、アブシジン酸(ABA)と呼ばれる植物ホルモンが作用し、気孔を閉じるように調整されます。
(参考:気孔の働きと開閉の仕組み)

気孔の役割

光合成のためのCO₂の取り込み

植物が効率的に光合成を行うためには、大気中の二酸化炭素を葉緑体へ供給する必要があります。気孔が開くことで、二酸化炭素が葉の内部に取り込まれ、光合成の材料として利用されます。気孔が適切に開閉しない場合、二酸化炭素の供給が不足し、光合成の効率が低下します。特に乾燥環境では、植物は水分を保持するために気孔を閉じる傾向があるため、光合成能力が制限されることがあります。

蒸散と水分調節

蒸散とは、植物が水分を気孔から放出する現象であり、植物の水分管理において不可欠な役割を果たします。蒸散によって発生する蒸散流は、根から葉へと水分や養分を運搬するのに役立ちます。また、蒸散によって発生する気化熱により、葉の温度を下げる効果もあります。

高温時には気孔を開いて蒸散を促進し、葉の過熱を防ぎますが、乾燥ストレスが高まると、植物は気孔を閉じて水分の蒸発を防ごうとします。これにより、植物は乾燥環境下でも生存できるように調整されています。
(参考:光合成・蒸散過程の統合的理解について)

気孔の形状の違いとその適応

気孔は植物のさまざまな部位に存在しますが、特に葉の表皮や茎に多く分布しています。そのほかに、花弁・萼・おしべ・ブドウ、リンゴなどの果皮、などにも存在します。

葉の両面に気孔が存在する植物(両面気孔葉)では普通、葉の裏面に気孔が多く存在します。しかし、多くの木本植物のように、葉の裏面に存在するもの(下面気孔葉)からスイレンのように上面だけ存在するもの(上面気孔葉)も存在します。気孔の形状も植物によって様々で、環境や進化の過程でさまざまな適応を遂げてきました。代表的な形状には、腎臓型と亜鈴型の2種類があります。

腎臓型気孔

多くの被子植物に見られるこの形状の気孔は、孔辺細胞が腎臓のような形をしており、開閉が滑らかに行われます。このタイプの気孔は特に湿潤環境に適応し、光の強さや湿度に応じて効率的に開閉します。

亜鈴型(ダンベル型)気孔

イネ科植物やシダ植物に多く見られる形状で、孔辺細胞が亜鈴(すず)のような形をしています。亜鈴型は小さな膨圧変化で、素早く、気孔開閉を行うことができると考えられ、この亜鈴型孔辺細胞からなる気孔を有する植物は蒸散比が低く、水利用効率も高くなると考えられます。そのため、乾燥に対する適応型とも考えることが出来ます。

(参考:腎臓型、亜鈴型はどこでこの違いが生じたのか)
(参考:光合成辞典・気孔)

気孔を見る方法

そんな気孔の一般的な観察方法としては、顕微鏡を用いて観察します。大きく分けて、表皮を剥がして直接観察する方法と、レプリカをとって間接的に観察する方法の二つがあります。

① 表皮を剥いで直接観察する方法

この方法では、葉の表皮を慎重に剥がし、スライドガラスの上に置いて観察します。特にムラサキツユクサのような表皮が剥がしやすい植物では、この方法が容易に実施できますが、表皮が厚い植物や剥がれにくい葉を持つ植物には不向きな場合があります。
(参考:気孔を分類しよう)

② レプリカ法(スンプ法)による観察

レプリカ法(スンプ法)を用いることで気孔の形状を間接的に観察することが可能です。この方法では、葉の表面に水絆創膏やセメダインなどの材料を塗布し、乾燥後に剥がしてレプリカ(鋳型)を作成します。このレプリカをスライドガラスに載せ、顕微鏡で観察することで、植物の気孔の配置や開閉状態を把握することができます。

レプリカ法は、植物の種類を問わず、切片を作る必要がなく手軽に実施できる点が利点です。また、生きた状態の気孔をそのまま再現できるため、観察時の気孔の開閉状態を把握することができます。ただし、細胞の内部構造を観察することはできないため、特定の細胞小器官を染色して詳細に解析するには不向きです。
(参考:レプリカ法による気孔の観察)

さらに詳細な観察を行いたい場合には、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用する方法もあります。この方法では、気孔の立体構造を高倍率で詳細に観察することが可能です。ただし、試料の前処理に時間がかかるほか、装置が高価であるため、一般的な農業用途や簡易的な研究には適していません。

気孔を観察すると何がわかるのか?

気孔を観察することで、植物の健康状態や環境への適応力を測ることができます。特に以下の点が明らかになります。

水ストレスの診断

乾燥状態にある植物は、水分を失わないように気孔を閉じる傾向があります。気孔の閉鎖率が高い場合、乾燥ストレスを受けている可能性があるため、適切な潅水管理が必要になります。
(参考:水分ストレス-ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA)

光合成の効率の予測

気孔が十分に開いていれば、二酸化炭素の取り込みがスムーズになり、光合成効率が向上します。逆に、気孔が閉じている場合、光合成が抑制されている可能性があり、生育不良の原因となることもあります。
(参考:気孔開度制御による植物の光合成活性と生産量の促進)

環境適応の指標

気孔の開閉パターンを調べることで、作物がどれだけ環境に適応しているかを知ることができます。例えば、高温・乾燥環境では気孔が早く閉じる植物もあり、耐性品種の選定にも活用されます。
(参考:C4植物の光合成能力と環境適応力はC3植物よりも進化的に優れている)

病害ストレスの検知

病気にかかった植物は、気孔の開閉に異常が生じることがあります。特定の病原菌は、気孔の閉鎖を妨げたり、逆に異常に閉じさせたりする作用を持っているため、気孔観察は病害診断の一助になります。
(参考:Controlling stomatal aperture, a potential strategy for managing plant bacterial disease)

Happy Qualityの取り組み

Happy Qualityでは、気孔を切り取らずにその場で観察できる世界初となるデバイス・Stomata Scopeを開発しました。現在、農業法人や大学などの研究機関などで導入が進んでおり、Happy Qualityでは気孔の開閉データを活用した栽培環境の最適化を目指し、Stomata Scopeを活用した研究・開発を進めています。植物の水ストレスや成長状態をより正確に把握することで、収量増加などにも寄与することができます。
また、実際にHapitomaの糖度を高めるための栽培ノウハウは、このStomata Scopeを使ったデータが生かされています。

Stomata Scopeの特徴

  • 非破壊測定が可能 → 植物を傷つけずに気孔の開閉をリアルタイムで測定。
  • AIを活用した検出 → AIを活用し、気孔の数や場所、気孔の開度の自動計測が可能に。
  • その場での測定が可能→ 手軽に持ち運びができるデバイスのため、様々な環境で栽培されている植物の気孔を繰り返し観察することができる。

現在、AIの検出モデルを12種類までに拡大させ、解析対象となる品目の拡充を進めています。

Stomata Scopeの活用事例

実際にStomata Scopeを導入していただいている企業や大学での活用事例は以下の通りです

  • 栽培現場における環境制御の指標の1つとしての気孔観察
  • 植物工場でのチップバーン抑制のための指標として
  • 薬剤・化合物の評価指標
  • 各品種間の耐性試験の指標

Stomata Scopeに関するさらなる情報や導入については、ぜひ以下のリンクをご覧ください。
詳細はこちら:Stomata Scopeについて

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